何度目だろう。
ハッと見つめる相手の瞳は、明らかに不審げ。
「あっ」
言い訳も思いつかず口ごもる涼木聖翼人=ツバサに、蔦康煕=コウは眉を潜める。
「聞いてなかっただろ?」
抑えようにも、苛立ちが滲んでしまう。
「ごめん」
「別に謝ってくれなくていいよ」
ツバサから視線を逸らし、コウは菓子パンにかぶりついた。
夕暮れの公園。ベンチの二人。
唐渓の生徒らしからぬ、なんとも素朴で質素なデート。
夕日を浴びながら駆けまわる幼児。親に手を引かれる野球少年。
もう何時間、ここに座っているのだろう。
「部活、今日はないんだっけ?」
努めて明るく口を開くツバサに、コウはうんざりとため息をついた。
「唐渓祭の準備で、放課後の体育館は三年生が乗っ取ってる」
唐渓祭とは、いわば文化祭のようなもの。
「あっ そうか」
「さっき話した」
簡潔過ぎるコウの言葉が、辺りの空気を重くする。
「ごめん」
「謝るなって」
ため息混じりの声が辛い。
100%ツバサが悪い。
コウの隣に座っていながら、コウの話などほとんど聞いていない。
なぜか?
スカートのポケットが、心なしか重く感じる。
あの写真―――
床に横たわる美鶴の写真。
手が後ろに縛られていた。なんか顔もぐったりしてたし、絶対おかしい。
あの写真は何?
と同時に、こんな疑問も。
どうして美鶴の写真がシロちゃんのところに?
男が持ってきたと言っていた。
誰?
珍しく不在の里奈。
何? なんだろう? なんだかすっごく悪い予感。
なのに、誰にも話せない。
「っんにしても、あっちぃな」
「今年も残暑厳しいってね」
何事もないかのように、話を合わせる。
コウには話せない。
話したくない。
そっと唇を噛む。
嫌な自分。
ひょっとしたらすっごく大変な事が起こってるかもしれないのに、私って自分の事しか考えていない。
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